PMI — ベトナムでの現地企業経営経験 その2

仕事

前回は、私のPMI (Post Merger Integration)経験のひとつで、後の人生に最も影響を与えた経験のひとつであるベトナムでの現地企業経営経験 その1を書いた。

業務に就いた際、必死に読んだ関連書籍などから感じたのは、PMIはコンサルティングファームやM&Aセンターなどが様々な分類の仕方を提示している。しかし、いずれも抽象度が高いのだ。まとめるから、また機密情報であることも多いから、やむを得ないとは思うものの、あまり詳細は記載されない。

当時、業務に当たるにあたって、実態がもっと知りたかった。私が自分の経験を元に差し支えない範囲でブログに記載して残しておこうと思ったのも、背景はその辺にある。これから先、業務にあたる方に対して、こんなケースもあるのか、自分ならどうするかな、と何かしら考えるヒントになればな、との思いである。

PMIの種類

前回書いたように、どのタイミングで自分が関わるか、によってやるべきことは大きく異なってくる。自分なりの分類を経験を元に記載してみたい。

基盤整備系:いわゆる守りを固めるタイプの最初の大きな仕事。営業ライセンス等必要な認可を取得したり、決算を早く始められるよう経営管理の仕方を定めたり、内部統制の体制を整備したり。その国の法律や会計・税務に関して知見が求められるため、外部の専門家との協業、本社との調整、他社の情報収拾、市場の状況を外資として&ローカル企業としての両面から確認などを通じて、意思決定のプロセスを進めていく。

業務プロセス改革系:業務の引き継ぎを行いながら、事業状況、取引先、仕入先などの関係会社、社内意思決定プロセス、業務システム、人事制度に至るまで、実態とプロセスを把握する。まず実態が把握できねば改革の必要があるのか、どのような方向に改革した方が良いのかも見当違いのものとなるため、多方面の情報を的確に判断しながら、地に足のついた現場理解が肝となる。

ビジネスモデル構築&戦略策定系:実態が把握できたら、今後の成長戦略を描きなおし、ビジネスモデルや戦略を構築する。M&A後はいわゆる「シナジー創出」が呪文のようによく唱えられ、M&A前と比較して大幅な成長を期待される。一方、海外でのM&A案件の場合特に、外資系企業として出せるパフォーマンスとローカル企業として出せるパフォーマンスは大きく異なる。事業内容によっては、ローカルに根ざしたビジネスをしなければそもそも成り立たないものもあり、どの方向で事業を成長させるか、の見極めが極めて重要となる。

意識改革系:統合される両社に、明らかに差分がある場合、業務や戦略の話をする前に意識を変えねば話も始まりにくい、という場合に意識改革をゴールとされるような案件がある。ハードの話も当然入ってくるものの、会社全体の話よりは、従業員個々人のマインド面にフォーカスした内容。

どこがどのように難しいのか?

私自身は幸運にも、上記全て経験することとなった。いずれの段階でもそれぞれの難しさがあると思う。個人的には、いかに守り系である基盤整備を早回しに進め、業務プロセス改革を現場に入り込んで行えるかによって、その後、精度の高いビジネスモデルや戦略が描けるかに繋がってくると思っている。

例えば、営業許可ライセンス。

それこそ、紙面積み上げ高さ10cm以上の紙書類準備が求められた。弁護士との打ち合わせを何度も重ねながら、ひとつひとつ書類の準備をローカルスタッフとともに進める。その過程で、いわゆる心付けのようなものを求められる機会もローカルならではの商習慣として出てくる。

日本との差分を常に突きつけられながら判断していくこととなるし、この判断が間違いないかを確認するためにも、自分の足で歩くことも必要となり、かなりの量の情報収集に時間が費やされる。本社財務や法務への説明責任も求められる。

さらに辛いのは、これが終わらないと営業できないと言いつつ、黒字化せねばならない現実は迫っており、いつまでも書類準備だけに忙殺されるわけには行かない。何をどこまで誰に任せるのか、自分が判断するのか、リスクはどこにあるのか、そのリスクは取れるのか、この辺はまさに判断のしどころなので、「誰がやるか」によって大きく変わってくる部分だと思っている。

例えば、経営管理資料の整備。

私の場合、純ローカル企業買収のPMIに入ったので、当然ながら経営資料は全てベトナム語。英語で用意されている資料は、DDの際の決算資料のみ。また、財務経理の役員は英語が話せるものの、実際の担当課長やスタッフはベトナム語しか話せない。何語で資料を作るのか、日々の意思決定プロセスはどうするのか、最初に大きく悩んだポイントのひとつだった。

全員英語が話せるスタッフを雇おうとすると、まず語学ができるだけで賃金は倍、一方、語学を頑張ってきた側面が強く実務経験レベルがどうしても低い。では、通訳を雇ってはどうか、これも通訳のビジネス理解レベルが十分でなく、ファームに雇われるようなレベルを雇おうとすると、売上を産まない、経営管理を行うとの行為だけでコストは3-5倍に膨れ上がる。

また、ローカルスタッフ同士では給与は完全に筒抜けであるため、この実務レベルのスタッフが英語(もしくは日本語)ができるだけでこんなにもらっている、となると、社内不和に繋がったり、情報を隠されたり、とうまく行かないことが多いのをこれまで目にしてきた。結構日系ローカル企業にありがちな事例だと思う。

私はどうしたのか?

財務経理役員とどのようなビジネスモデルだとここで勝てるか、をまず徹底して話し合った。その後、そのためには使える人件費はこれくらい、との試算をともに出し、どのような人員構成で臨むのが良いかを提案してもらった。この営みを通じて、財務経理役員と私は、同じ目線で同じ船に乗れるか、を見定めるしかないと思った。

結果、思い切って、通訳を雇うのをやめ、財務経理スタッフはベトナム語しか話せないローカルの実務経験が豊富&信頼できるスタッフを雇った、財務資料は英語に変更した。加えて、1円決裁を一定期間導入した。

1円決裁とは、たとえティッシュペーパーを買うような小さなものであっても、毎月払っている水道代であっても、1円でも使うなら、私の決裁を取るというもの。決裁用紙は英語とベトナム語併記とし、それらの支出願いをだす担当スタッフが直接紙に書いて、私の元に持ってくることにした。事後報告は認めない。いずれも財務経理役員からの提案を元に二人で話し合って内容を調整し、最終的に決めたものだった。

結果は抜群だったと思う。半年かからず経営管理資料は完全に整備され、私は1円決裁を始めてから3ヶ月ほどでお金の流れを完全に把握した。何にいくらかかっているのか、誰がどこで回しているのか、半年経った頃には、月次決算が正確に出るようになり、それを見ると、この数字は間違っているのではないか、ここは詳細を見せて欲しい、など土地勘を完全に掴んだ。これらを通じて、隠れていたリベートの存在なども聞き出すことができるようになった。

そして、ビジネスモデルの悩み

これはかなり辛かった。これまでの勝ちパターンが外資となった途端に通用しなくなるからだ。いわゆるローカル中小企業の商習慣の一環として行われていた個対個の現金商売、つまり両者で脱税可能な状態である。

これを会社対会社の銀行決済にしようとすると、いわゆる旨味部分がなくなってしまうので、これまでの取引業者とはビジネスを打ち切らざるを得なくなった例が多かった。その分、短期的には大幅に売上が下がる。また、それをベースに生活していた従業員の退職や評価制度の問題など、芋づる式に問題が溢れ出てきた。いわゆる、改革の痛み、組織の半分くらいは入れ替わることになった。

ローカル商習慣をどこまで理解し、受け入れるのか、また受け入れなかった場合、新しいビジネスモデルはこの市場で本当に通用するのか、行きつ戻りつ、一番悩んだことのひとつだと思う。

最終的には、私は改革の方向を推し進めた。その間、事業に密接に関わる税務問題に加え、日々の従業員からの様々な訴え、他労務問題に正直なところ、疲労困憊だった。

ここから学んだのは、やりかけたことは中途半端で迷わず、やり抜くためにどうするか、考え、ひとつずつ実行し、わかってもらうしかない、ということ。結果的に、当初の目標であった2年目単年黒字化は達成した。売上は下がったが、営業利益では何とか黒字となった。営業努力の側面でも、様々な思い出ストーリーが詰まっているが、これはいずれどこかで。

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