『ファイナンス思考』– 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論

学び

本書はすごくわかりやすく実務的と言うにふさわしい。ファイナンスの基礎的な概念の復習にもなり、不確実性の高い環境下での意思決定の仕方、その際のPL脳の弊害、事例が豊富。どのページも読み飛ばすことなく、じっくり味わえたので、特に事業開発に関わる方、会社経営に関わる方にはお勧めしたい。

本書では、ファイナンス思考が必須とされる前提として、PL脳がもたらす本質的な問題を行動パターンとして5点挙げている。

① 黒字事業の売却をためらう

② 時間的価値を加味しない

③ 資本コストを無視する

④ 事業特有の時間感覚を勘案しない

⑤ 事業特有のリスクを勘案しない

強調されている1つ目は、今現在黒字事業であっても、将来にわたってどの程度のキャッシュを生み出すのか、将来にわたっての価値「時間的価値」を加味することがいかに大切かの観点。

2つ目は、「資本コスト」の観点。PL上利益が黒字であっても、ROIC(投下資本利益率)がWACC(加重平均資本コスト)を上回っていないとすると、高い金利で借金して、低い利回りの金融商品に投資しているのと同じこと。仮に上回っていないとしても、その事業が時間をかけることによって、成長し、将来的により高いROICが期待できるのであれば、ROIC-WACCは先行投資としてみなすことができるが、それが見込めない場合は「資本コスト」を無視していることになる。

これらを勘案した上で、現在は黒字であるこの事業が将来のどの時点で、どのように成長することを描いているか、ここに経営者としての「意思」が表れ、ファイナンス思考での説明責任が問われていると言われている。
従来の延長線上での前年比、四半期毎の利益にどうしても拘るインセンティブが働いてしまうPL脳では、なかなか売却の意思決定はできないのは納得感が高い。

「会計の知識があっても陥る利益至上主義」のパートは必読。私もPMI(買収後の統合プロセス)を任されていた際に、この説明ができていればもっと関係者を納得させられただろうと思い出す。

先を読むのが極めて難しい環境下で、「将来的にその事業が生み出す価値」をどのように見積もって、どのようにステークホルダーに納得させられるか。本書ではアマゾン、リクルート、JT、日立などの事例を読み進めることで、具体的なHowがみえてくる。事業開発者や経営者の方にはぜひ実践知として味わっていただきたい。

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